ルネサンス期のヴェネチア派の巨匠でその後の画家たちに大きな影響を与えたティツィアーノ・ヴェチェッリオの作品「エウロペの略奪」です。
本作品は黄金期のスペインの皇帝フェリペ2世から注文を受けて制作した7点からなる連作の最後の作品です。
7点の連作は古代の神話を題材に人間の過ちなどを描いたもので、ティツィアーノは自ら連作を゛ポエジエ(詩想画)”と呼んでいました。
また、後世の画家であるルーベンスはティツィアーノを尊敬しており、「エウロペの略奪」を模写しています。
作品 エウロペの略奪
本作品「エウロペの略奪」は主神ゼウスがテュロスという古代都市の王女エウロペの美しさに魅了され、彼女を誘惑するため白い雄牛に化けて近づき、エウロペが油断して雄牛の背中に乗ったところ、クレタ島まで連れ去ってしまう場面を描いています。
「エウロペの略奪」
(1559-1562年)
神話ではエウロペはゼウスが化けた雄牛の角を右手てつかみ、左手は雄牛の背中において自身の体をささえたとしているのですが、ティツィアーノは神話の内容では描いていません。
エウロペのひどく乱れた服や不安定な体制、おびえた表情などエウロペの恐怖や困惑、警戒心を描いています。
右手を挙げて天使が射ようとしている愛の矢をさけているようです。また右手の顔への影がエウロペの恐怖を強調しています。
また、雄牛の下から恐ろし気な魚が顔をだしているなのどエウロパの緊迫した状況が表現されています。
岸辺に描かれた女性たちが小さく描かれており、すでにエウロペが遠くに連れ去れていることが分かります。
一方で左手で雄牛の角を掴み雄牛の首に腕を回していることで、エウロペの相反する心理を描こうとしたとされています。
クレタ島に連れ去られた後、エウロペはゼウスに愛される未来を本作品で同時に表現しようとしたとも思われます。
ルーベンスとベラスケスへの影響
ティツィアーノは後世の画家に大きな影響を与えましたが、本作品はルーベンスが模写しています。
またその模写をディエゴ・ベラスケスが画中画として描いています。
ルーベンスの模写「エウロペの略奪」
(1628年)
ルーベンスはティツィアーノを尊敬しており本作品「エウロペの略奪」を忠実に模写しています。
ベラスケスは、自身の作品「アラクネの寓話」で画中画として「エウロペの略奪」を書き込んでいます。
「アラクネの寓話」
(1655-1660年)
ベラスケスが画中画として描いたのはルーベンスの模写を描いたとされています。
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