ルネサンス後に流行した首や手足を長く、身体を伸ばしたような描写をするマニエリスムの代表的画家エル・グレコの現在確認されている2点しかない風景画のうちの1点「トレドの風景」です。
スペインの古都トレドは、エル・グレコが活動の拠点とした街で、グレコは彼の独特の世界観から神秘的な描写でトレドを描いています。
グレコの世界観や解釈によって描かれた本作品は、当時のトレドの様子を忠実に示した風景画とはなっておらず、グレコの視点や当時の心境を反映した作品となっています。
作品 トレドの風景
ギリシャ人のエル・グレコはキャリア初期にはイタリアで活動していましたが、宮廷画家を目指しスペインへ移り、かってスペインの首都でもあった古都トレドで活動しました。
「トレドの風景」
(1597‐1599年頃)
本作品は、ちょうどグレコが初めて王室からの注文を受け制作した「聖マウリティウスの殉教」がスペイン王フェリペ2世に不評をかい、王宮画家の道が閉ざされた頃に描いた作品です。
「聖マウリティウスの殉教」
(1580‐1582年頃)
本作品「トレドの風景」では、暗い雲の間から陽の光がさしている様子が描かれています。
既にスペイン国内で評価されてきていたエル・グレコにとっては、王宮画家の道は閉ざされたものの、気持ちを切り替え将来に希望を持つ気持ちを表現したのかもしれません。
陽に照らされた川や木々の描写は流れるような筆跡で、後の印象派のような描写となっており20世紀の再評価につながっています。
右手丘の上のトレド大聖堂やアルカサル宮殿が描かれ、川に向かって建物の連なりが描かれています。
実際のトレドの地形は、これほど急勾配ではなく、トレド大聖堂とアルカサル宮殿の位置関係も実際とは違うものとなっています。
エル・グレコの現在確認されている風景画は2点のみで本作品以外の作品もトレドを描いています。
「トレドと景観と地図」
(1610‐1614年頃)
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