16世紀 盛期ルネサンス ヴェネチア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが画家として独立した頃の作品とされる「ノリ・メ・タンゲレ」です。
ノリ・メ・タンゲレとは、新約聖書内にあるイエス・キリストの復活をマグダラのマリアが発見した場面でイエス・キリストがマグダラのマリアに言った言葉でラテン語で「我に触れてはいけない」という意味です。
ティツィアーノ初期の作品の特徴となっている緑色の顔料の酸化により背景が茶色を帯びた色彩になっていますが、ヴェネチア派の特徴でもある鮮やかな赤や青色が彩色されています。
作品 ノリ・メ・タンゲレ
マグダラのマリアが磔で亡くなったとされたイエス・キリストが復活しているのを発見、イエス・キリストに触れようと手を伸ばす場面が描かれています。
この場面自体は他にも多くの画家が描いており、同じ題名がついています。
「ノリ・メ・タンゲレ」
(1514年)
ティツィアーノは、マグダラのマリアが着る赤い服、草木の緑、海と空の青とヴェネチア派の特徴とされる鮮やかな色彩で聖書内の重要な場面を描いています。
また、作品中央に一本の木を描くことで、イエス・キリストのいる世界とマグダラのマリアがいる世界とを区別しています。
木を境にイエス・キリストの方は暗く、マグダラのマリアの方は明るくなっています。
木とイエス・キリストの視線、マグダラのマリアの頭と肩の線が重なっており、木が境となっていることが強調されています。
さらに、イエス・キリストがもつ鍬(鎌)は、木で描かれた境とX線となって、イエス・キリストに手を伸ばすマグダラのマリアが超えてはいけない線を意味しているようです。
鍬(鎌)の線に対して、イエス・キリストの体の傾きも平行に描かれ、強調されています。
背景右手には丘と建物が描かれていますが、当初は左手に描かれていたようですがティツィアーノ自身が制作時に変更したことが分かっています。
この建物と同様な描写は、ティツィアーノの他の作品でも多く登場しています。
「眠れるヴィーナス」
(ジョルジョーネ作とされジョルジョーネ死後、ティツィアーノが完成)
(1510-1511年)
「聖愛と俗愛」
(1514年)
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