多くの画家が題材として描いてる、”受胎告知”をルネサンス期ヴェネチア派の巨匠ティントレットが描いた作品です。
ティントレットはヴェネチア派の第一人者であるティツィアーノに師事しながらもバロック様式的な明暗対比や人体を少し引き伸ばしたようなマニエリスムのような描写など独自の作風を確立しました。
本作品は、サン・ロッコ同信会というカットリックの団体の会館の装飾の為に制作された連作のうちの一作です。
ティントレットは多くの助手を抱えて、この連作を完成させており、本作品の一部にも助手の協力を得て制作しおり、天使たちや背景の細部の描写には息子のドメニコ・ティントレットの手が入っていることが判明しています。
作品 受胎告知
イエス・キリストを身籠ることをマリアに伝える大天使ガブリエルが中央に描かれ、上に弧を描くように天使たちが描かれています。
他の画家が描く”受胎告知”とは全く違った形式での描写です。
「受胎告知」
(1583-1587年)
画面前面に描かれている大きな柱には、作品中の建物の外と内を分ける役割の他に鑑賞者に作品の世界が別世界で起きているような印象を与えています。
柱によって画面上で分割された戸内の対角線上に精霊とされる鳩を描き、その鳩を中心に弧を描くように各登場人物の動きを描写しています。
戸内の直線的描写と人物の曲線を対比しているようです。
戸外の奥には、後にマリアと結婚することとなる聖ヨセフと思われる人物が描かれていますが、目立たないように描かれているようです。
マリアの隣には、糸車と糸巻き棒が描かれており、マリアが仕事熱心な女性であることを表現しています。
また、目立たないように描かれているが聖ヨセフも熱心に大工仕事をしている様子がえがかれ、美徳とされる二人の勤勉な様子が描写されています。
本作品は、サン・ロッコ同信会の会館を装飾する連作として制作され、鑑賞者は下から見上げて作品を鑑賞します。
下から見上げた場合、より聖霊に照らされるような聖母マリアが強調されているような感覚になります。
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