19世紀 バルビゾン派の代表的な画家で、農民の様子を多くの作品に描いたジャン=フランソワ・ミレーの作品です。
当時のフランスは普通選挙の開始などにより農民・労働者階級の政治的発言権が増しており、ブルジョア階級との対立が高まっていました。
ミレーは本作品「種まく人」をサロンへ出品しましたが、ブルジョア階級からは批判を受け、一方、農民・労働者階級からは賞賛を得たようです。
ミレー自身は、政治的な表現を試みた訳ではありませんでしたが、農民を描くことは自身の性格や技術にあっているとの認識でした。
本作品は同じ構図で2作品制作されており、どちらがサロンへ出品されてたか判明していません。
また、ミレーを尊敬していたゴッホが本作品の模写を多くのこしています。
作品 種をまく人
本作品は政治的に階級間の対立が起きていた時の作品で、ブルジョア階級からは力強く描かれた農民が英雄のようで現在の体制に異議を申し立てている姿ととらえ批判したようです。
農民・労働者階級からは農民が英雄のように描かれていると作品を賞賛しました。
「種まく人」(ボストン美術館蔵)
(1850年)
農民の種をまく動きが力強く描かれ、地面の暗い色彩に対して農民の服装を原色に近い色で描き、作品のなかの農民をより際立たせています。
同じ構図で別に作品が制作されており、山梨県立美術館が所蔵しています。
「種まく人」(山梨県立美術館蔵)
(1850年)
どちらの作品がサロンに出品されたかは定かではありません。ボストン美術館蔵の方が輪郭がはっきりしており、山梨県立美術館蔵の方が筆跡が激しくより動きが表現されている印象です。
政治的な論争を起こした作品でしたがミレー自身は、そのような意図はなかったようですが、農民を描くことは自身の技術や正確にあっているとの言葉を残しています。
背景に牛と農作業をしている人が小さく描かれ、夕日に照らされている様子が描かれており、全面の土の暗さとの農民の力強さを強調しています。
また、2003年のX線調査で、下絵よりも上半身が意図的に大きく描かれていることが判明しています。
ゴッホの種をまく人
フィンセント・ファン・ゴッホはミレーを尊敬し、ミレーの作品を多く模写しています。なかでも「種まく人」はいろいろな構図、色彩で模写をしました。
本作品「種をまく人」は新約聖書の中の「種をまく人のたとえ」という話しを連想させます。
種をまく人がイエス・キリスト、種はイエス・キリストの教えや言葉、土地がイエスの教えや言葉を聞く人々を表し、よくイエス・キリストの言葉を聞き、教えを守る人は実を結ぶとの話です。
牧師を目指したゴッホにとっては、深い共感を覚えたのかもしれません。
「日没の種まく人」
(1888年)
ゴッホは、ミレーの「種をまく人」の色彩を残念と思っており、自身の作品では意識的に刺激的な色彩で描かれています。
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