レンブラント・ファン・レインが支援者の注文を受けて制作した作品でレンブラントの作品のなかでも数少ないギリシャ神話を題材にした作品「エウロパの誘拐」です。
本作品の題材は最高神ゼウスが牡牛に変身してフェニキア国の王女エウロペを誘拐するギリシア神話のなかの物語です。
エウロペはヨーロッパの語源となっています。
また、この作品を注文した人物は江戸時代初期に長崎平戸にオランダ商館を作った人物です。
作品 エウロペの誘拐
レンブラントは支援者で注文者の経歴や好みをギリシア神話を利用して本作品に反映したと言われています。
注文者はオランダ東インド会社の人物で長崎平戸にオランダ商館を設立するとともに当時オランダが支配していたインドネシアの総督を務めたヤックス・スペックスという人物です。
ヤックス・スペックスはレンブラント作品を複数コレクションし、1990年に盗難に会い未発見の「ガリラヤの海の嵐」をコレクションしていました。
「ヤックス・スペックスの肖像」
(1650年)

「ヤックス・スペックスの肖像」
「エウロペの誘拐」
(1632年)

レンブラント・ファン・レイン
「エウロパの誘拐」
J・ポール・ゲティ美術館蔵(アメリカ ロスアンゼルス)
バロック絵画の特徴である明暗対比として作品左側から日が当たり牡牛に乗ったエウロペと騒ぎ驚く侍女たちに光が当たっています。
ギリシア神話の物語ですが、女性たちのドレスは当時のもので、より注文者が受け入れやすいものとしています。
作品右側の木陰の陰に描かれている馬車は、異国風で豪華なものが描かれており、ヤックス・スペックスが滞在した日本やインドネシアなど異文化の世界を表現しているようです。

牡牛に変身したゼウスに連れ去られるエウロパは、ヤックス・スペックスがアジアから海を渡って多くのものをヨーロッパにもたらしたことを表現していると言われています。

作品の奥に描かれている港町は、当時、貿易地として発展していたオランダ アムステルを意味しているともされています。

ティッツァーノの「エウロペの掠奪」との比較
レンブラントが本作品を制作する70年前にイタリア ヴェネチア派の巨匠ティッツァーノが同じ神話を題材に作品を制作しています。
「エウロペの略奪」(ティツィアーノ)
(1559-1562年)

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
「エウロペの略奪」
イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館蔵(アメリカ ボストン)
ティツィアーノの「エウロペの略奪」はルーベンスが模写しており、当時から非常に評価された作品でした。
また、ベラスケスが「アラクネの寓話(織女たち)」の画中画でも用いられるなど、その後の画家たちに影響を与えています。
「アラクネの寓話(織女たち)」
(1657年頃)

ディエゴ・ベラスケス
「アラクネの寓話(織女たち)」
プラド美術館蔵(スペイン マドリード)
しかし、レンブラントはティツアーノの作品がエウロペと牡牛に鑑賞者の視線が集中するような構図なのに対して、作品の左側からの光が照らすエウロペと侍女に鑑賞者の視線が最初に行くようにするとともに、その後、作品全体の物語性に鑑賞者が気づくような誘導をしているような構図です。
レンブラントは、「北のティツアーノ」とも呼ばれていたらしく、ティツアーノの影響を受けた画家ですが、本作品では同じ題材を全く別の構図で表現しています。

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