バロック期の巨匠カラヴァッジョは「エマオの晩餐」という作品を2作制作しています。
2作の作品はカラヴァッジョ自身のその時に彼のおかれた状況を反映した、対照的な印象を与える作品となっています。
エマオの晩餐とは
エマオの晩餐とは、聖書のなかの一場面でエルサレムから少し離れたエマオという場所に復活したイエス・キリストが現れ、旅をしている弟子たちと出会います。
イエス・キリストの復活を知らない弟子たちは、出会った男がキリストと気づかず、キリストを自分たちの宿に招き食事を共にします。
キリストがパンを割ったとき、弟子たちは男がイエス・キリストだと気が付きますが、その時、キリストは消えてしまうという話の一場面です。
「エマオの晩餐」
(1601年)
1作目の「エマオの晩餐」は、カラヴァッジョらしく明暗対比がはっきりと描かれています。
登場人物の描写
イエス・キリスト
中央のイエス・キリストはふくよかで、若く描かれ、髭もありません。
これは、イエス・キリストは元の姿とは違う姿で現れたとされているため、意図的に一般的なイエス・キリストと違うイメージで描いたとされています。
弟子のクレオパ
右の男性は、キリストの弟子クレオパとして、巡礼者の印のホタテの貝を胸に付けています。
クレオパが中央で座る男がイエス・キリストだと気が付き、両手を広げて驚愕している様子が描かれています。
手がこちらに飛び出てきそうに描かれ、遠近法では難しい内側から外側へと腕を伸ばす様子の描写が優れています。
驚きで椅子から立ち上がろうとする弟子
もう一人の弟子は、名前が不明なため、背中を向けて描かれています。
驚きで椅子から立ち上がろうとする瞬間が描かれています。
給仕の男
立っている男性は、給仕の男性で、何が起こっているかわからない様子です。
食卓の描写
静物画が得意なカラヴァッジョは食卓の食べ物も詳細に描いています。
チキンの丸焼きや多くの果物、ワインが描かれており、裕福な人々の食卓のように描かれており、不自然さがあります。
自身の技量を示すために多くの食べ物が描かれています。
山盛りの果物が入った籠がテーブルから落ちそうに描かれており、弟子たちがいる現実世界を表現していると言われています。
果物籠の影が、イエス・キリストを意味する魚の形をしています。
2作目の「エマオの晩餐」
「エマオの晩餐」
(1606年)
1作目の5年後に描かれた2作目の「エマオの晩餐」は、カラヴァッジョが殺人を起こし、逃亡中に描いた作品です。
作品は逃亡資金を得るために制作されたと考えられます。
その為か、作品全体はより影が濃く描かれており、食事は質素な物となっています。
1作目とくらべると弟子たちの身振りもおとなしく、キリストも一般的イメージで描かれ、1作目の劇的な瞬間を表したものよりは、かなり控えめな表現となっています。
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