印象派が活躍した19世紀後半、産業化により市中に劇場が多くできた時代で、裕福な市民が劇場に訪れはじめた時代でした。
劇場は、社交場の中心的な場所となり、劇場に訪れた女性は劇の鑑賞者であるとともに、自身が注目の対象ともなっていました。
ルノワールとメアリー・カサットが、そんな観劇する女性を対象的な表現で作品を制作しちます。
ルノワール 「桟敷席(さじきせき)」
印象派の代表的な画家ピエール=オーギュスト・ルノワールが、当時の劇場での女性と男性の様子を描いています。
「桟敷席」
(1874年)
女性は、観劇に使用するオペラグラスを下ろし、胸元が開いた服と花を持っており、観劇者の目を意識しています。
また、男性はオペラグラスを劇ではなく、上方の観劇者の方に向けています。
ルノワールは、観劇に来た女性が自分が鑑賞の対象とされていることを認識していて、それを受け入れている様子を描写しています。
男性のモデルは、ルノワールの弟で、女性は女優のニニ・ロペスという人物です。
ニニ・ロペスをモデルにルノワールは他の作品も制作しています。
「ニニ・ロペスの肖像」
(1876年)
メアリー・カサット「オペラ座の黒衣の女(オペラ座にて)」
メアリー・カサットは女性参政権運動に参加するなど女性の地位向上に尽力した画家で、ルノワールの「桟敷席」の表現をより明確にし、当時の男性を批判的に描いています。
「オペラ座の黒衣の女(オペラ座にて)」
(1879年)
ルノワールの「桟敷席」では、女性は白と黒のドレスで着飾っていますが、カサットの女性は黒一色で、オペラグラスをステージに向け観劇に集中しています。
作品には黒衣の女性にオペラグラスを向ける男性が描かれており、カサットは当時のこのような男性への批判、軽蔑を表現しています。
また、女性の優美さを演出する扇が閉じられており、カサットの意志が感じられます。
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