ポスト印象派の代表的な画家ポール・ゴーギャンは、太い輪郭で遠近法を排除した技法(総合主義)で作品を制作しました。
本作品は総合主義の代表的作品とされています。
ゴーギャンは、フランスのブルターニュ地方の”聖人の祝日に伝統衣装を身に着け、免罪符を受け取る”という習慣を作品に描きました。
作品の右上に描かれているのは、旧約聖書内にある「天使とヤコブの闘い」の話しがモチーフになっています。
ヤコブと天使の闘い
ヤコブとは、旧約聖書の「創世記」に登場するヘブライ人の族長で、イスラエル民族の始祖となる人物です。
ヤコブは、兄から命を狙われ逃亡生活をおくりますが、逃亡生活の途上に自分の子孫が偉大な民族になるとの約束を神から授かります。
やがて、財産を築いたヤコブは兄と和解するため兄のもとに向かうのですが、途中で神(天使)に襲われ、戦うこととなりますが、勝利します。
そして神の勝利を意味する”イスラエル”という名を神から与えられました。
この話しは、多くの画家に好まれ作品にされました。レンブラント、ドラクロワも作品の題材としています。
「天使と戦うヤコブ」(レンブラント・ファン・レイン)
(1659年)
「天使とヤコブの闘い」(ウジェーヌ・ドラクロワ)
(1861年)
作品:説教のあとの幻影(天使とヤコブの闘い)
ゴーギャンは、本作品で印象派から脱却し、画家として新たな作風による作品制作をすることとなります。
ゴーギャンは、当時、一緒に原始芸術に関心をもち同じような表現方法を模索していた若手画家エミール・ベルナールの「草地のブルターニュの女たち」を見て、この技法(総合主義)の可能性を確信したと言われています。
「草地のブルターニュの女たち」
(1888年)
ゴーギャンは、ベルナールの表現を更に単純化させた「説教のあとの幻影(天使とヤコブの闘い)」を発表しました。
「説教のあとの幻影(ヤコブと天使の闘い)」
(1888年)
しかし、本作の発表はベルナールの作品発表から2-3週間後でもあり盗作疑惑も起こりゴーギャンとベルナールの関係に亀裂を生じさせることとなりました。
樹木で現実と幻影を分ける構図
ブルターニュ地方の民族衣装で描かれている女性たちは、右下に描かれた司教の説教を聞いています。
木から右上にその説教に出てきたヤコブと天使の闘いのシーンが幻影として描かれています。
鮮やかで単純化させた色彩を使用、縮尺も歪められており幻想的な印象を与える表現となっています。
浮世絵の影響
平面的な表現、唐突に配置される一本の樹木は浮世絵の影響とも言われ、ヤコブと天使の闘いの描写が北斎の相撲の描写の影響を受けいているとも考えられています。
北斎漫画 相撲
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