ルネサンス期の巨匠ティツィアーノのキャリア後期の作品で、スペイン国王フェリペ2世の為に制作されたギリシャ神話を題材にした7点の連作の内の1点です。
ティツィアーノがフェリペ2世に宛てた手紙で「猟犬に傷つけられたアクタイオン」と呼んでいた作品が本作品だと考えれれています。
実際には本作品がフェリペ2世に届けられることはなく、ティツィアーノが亡くなるまで彼の工房に残されていました。
そんなことから完成品か未完成品かの議論が現在も続いているようです。
アクタイオン
ギリシャ神話のエピソードで、アクタイオンという男が仲間と猟犬をつれて狩りをしようと山に入り、その山にあった洞窟に入っていきます。
その洞窟では、狩猟の女神ディアナが沐浴をしており、アクタイオンはディアナの裸体を目撃してしまいます。
怒ったディアナは、アクタイオンが自身の裸体を言いふらさないようにアクタイオンを鹿にかえてしまいます。
鹿に変えられてしまったアクタイオンは自身が連れてきた猟犬に見つかり、一斉に噛みつかれ、仲間たちも鹿がアクタイオンとも知らず猟犬たちをけしかけ、アクタイオンは死んでしまうという話です。
作品 アクタイオンの死
本作品でティツィアーノは、主人公が女神に鹿に変えられ、自分の猟犬に食い殺されるという物語の悲劇的な結末の場面を描いています。
「アクタイオンの死」
(1559-1576年)
本作品では左側に女神ディアナが描かれ、鹿に変わりつつあるアクタイオンに矢を向けています。
物語にはディアナ自身がアクタイオンを追い、弓を射る場面はありません。
作品中でも弓の弦は描かれておらず、ディアナも弓を持っていません。意図的なのか制作途中であったのかは判明していません。
また、物語ではアクタイオンは完全な鹿の姿となってしまうのですが、本作品では鹿に変身する途上に猟犬に襲われている様子が描かれています。
ティツアーノは、連作として本作品の題材の話のもととなるアクタイオンがディアナの裸体を目撃してしまう場面も描いています。
「ディアナとアクタイオン」
(1556-1559年)
両作品を所蔵するイギリスのナショナル・ギャラリーでは両作品を並んで展示しており同時に鑑賞が可能です。
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