18世紀のロココ期の画家アントワーヌ・ヴァトーの作品「ピエロ(ジル)」です。
ジルとは、イタリア語でピエロ役を担うものをジルと呼び、当初は「ジル」という題名で本作品も呼ばれていたようですが、現在は「ピエロ」の題名の方が一般的です。
本作品は、184.5X149.5cmと非常に大きな作品で、モデルのピエロもほぼ等身大で描かれていると思われます。
ピエロには、人を笑わせる役者の他にパントマイムを演ずる役者も指す言葉で、本作品のピエロが着る白く大きいな衣装はパントマイムの役者がよく着る衣装のようです。
作品 ピエロ(ジル)
ヴァトーが本作品を制作した目的は判明していません。現在はその作品の大きさから芝居の宣伝の為、もしくは、ピエロ役者が開店したコーヒー店の看板とする為という2つの説が有力のようです。
「ピエロ(ジル)」
(1718‐1719年)
本作品のモデルとなっているピエロは当時、人気の劇役者ベロー二とされています。
人を笑わせる仕事のピエロですが、本作品では手を力なくおろし表情もどこか悲しげな印象を受けます。
演劇中は喜劇役者が隠さなければならない孤独感や悲しみを描写したのかもしれません。
このピエロはヴァトー自身を投影したものだとの説も一部では考えられています。
ピエロの後ろには、一段低く他の役者が描かれています。
左手でロバに乗っている人物は、笑われ役の医者、右手の赤い服の男性は兵士、そのとなりの女性がヒロイン、奥の男性がその恋人です。
本作品制作の約1年後にヴァトーは本作品と同様な題材で別の作品を制作しています。
「イタリアの喜劇役者たち」(アントワーヌ・ヴァトー)
(1720年)
本作品「ピエロ(ジル)」は、ピエロの表情や様子、他の役者多たちの描写から少し不思議な印象を鑑賞者に与えています。
ヴァトーは、意図的に作品の主人公ピエロを画面の中心からはずして描くことで、作品のバランスを崩すことで安定感を無くして、鑑賞者に不思議な感覚を与えていると思われます。
本作品のピエロは、その後エドゥアール・マネの作品「老音楽師」に登場する少年のモデルとなっています。
「老音楽師」(エドゥアール・マネ)
(1862年)
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