強い明暗対比をしつつ静謐な精神性が高い夜の作品を多く描いたジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品「聖イレーネに介抱される聖セバスティアヌス」です。
バロック絵画の巨匠カラヴァッジョに大きく影響を受けているのは確かですが、カラヴァッジョの激しく動きのある作品とは違い、静かな夜の作品が多く”夜の画家”とも呼ばれています。
本作品は、”ローマの軍人でありながらキリスト教徒であることが発覚し、無数の矢を射られて瀕死の状態の聖セバスティアヌスを看護師の守護神でもある聖イレーネに介抱される場面”を描いています。
また、本作品はラ・トゥールの作品のなかで場面が屋外であることがわかる現存する唯一の作品です。
作品 聖イレーネに介抱される聖セバスティアヌス
ラ・トゥールの他の作品同様に本作品でも柔らかい炎の描写が特徴的で、松明の炎が照らす場面がやわらかく、静かな印象を鑑賞者に与えています。
「聖イレーネに介抱される聖セバスティアヌス」
(1649年頃)
炎の照らす光の範囲は対角線上で明暗が分けられており、聖イレーヌと横たわる聖セバスティアヌスを少し強調しています。
一方で、聖イレーヌの後ろで悲しむ女性達は青や赤などの頭巾をかぶって描かれており、静謐な印象を与える作品ないで色彩を感じさせています。
作品内で矢が刺さった状態で横たわっている聖セバスティアヌスは、ヨーロッパを度々襲っていたペストから人々を守ってくれる守護神とされています。
他の多くの画家が聖セバスティアヌスを描いていますが、本作品では表情などあまり詳細には描かれていません。
ラ・トゥール自身もペストで弟子や甥を無くしており、本作品もそのような背景が投影されていると言われています。
本作品には複製画がベルリン絵画館に所蔵されており、当初はオリジナル作品と考えられていましたがラ・トゥールの息子で画家でもあったエティェンヌが父親の作品をもとに制作したものと考えられています。
「聖イレーヌに介抱される聖セバスティアヌス」(模写)
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